こいびと
こいびとよ
春の草むらが香り立っているではないか
ぼくは答えを待っている
そのときあなたは小さな欠伸をする
ぼくは子供のように抗議する
そのときあなたはふいに忘れていたことを思い出す
自分が誰だったのか
あなたはわきあがる雲 羊水のなかを泳ぐ両生類
あなたは満ちてくる潮 しなやかに熱いからだのけだもの
あなたは流れてゆく川 絶えまなく死んでいくもの生まれてくるもの
こいびとよ ぼくもさっき気づいたばかりだ
自分を消さない限り、あなたには出会えないと
これからときどきぼくはぼくではない
これからときどきぼくは何処にもいない
そのときぼくはあなたの海に潜水しているだろう
そのときぼくはあなたの空で羽搏いているだろう
そのときぼくはあなたの草むらで死に
そして生まれているだろう
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